早稲田大学理論核物理研究室 研究内容

 原子核は核子(陽子と中性子)が核力という力で結合している系で、現在約3000種類の原子核が実験的に知られています。それらの膨大な実験データ の多くについて、まだ理論的に十分な説明がなされていません。
 原子核構造研究の困難さは2つの側面を持ちます。1つは、核力の複雑さです。核力は強い短距離引力と斥力芯から成り、また核子のスピンや速度等によって変化する、非常に複雑な力です。さらに、3つの核子の間に働く3体力も重要であると考えられていますが、その詳細はまだ分かっていません。もう1つは、多体問題的側面です。一般に多体問題を解く事は困難ですが、例えば鉛の原子核208Pbは、82個の陽子と126個の中性子から成り、その構造を知るためには208体問題を解かなければなりません。現状で、これを厳密に解く事は不可能です。
 そこで我々は、無限個の核子から成る無限に大きい仮想的な原子核(以下では核物質と呼びます)を考えます。そして、主に変分法を用いて、核物質の多体問題的研究を行う事により、核物質の観点から原子核の大局的性質を理解する事を目指します。核物質エネルギーの理論計算により、いわゆる核物質の状態方程式 (EOS)が得られますが、それは中性子星や超新星爆発などの高エネルギー天体現象へと応用されます。
 中性子星は半径10 km程度の非常にコンパクトな星ですが、太陽と同程度の質量を持ち、その内部は高密度核物質です。その強い自己重力に対して、内部の核物質の硬さが星自身を支えています。よって、中性子星の構造研究には、核物質EOSの情報が必要です。また、恒星の進化の最終段階で起こる超新星爆発のきっかけも、核物質の硬さにあると考えられます。我々のグループでは、このような高エネルギー天体現象の理論的研究に適用可能な核物質EOSの研究を行っています。
 さらに、核物質と類似の量子流体である液体ヘリウムの多体問題的研究、原子核質量やβ崩壊の研究なども推進しています。